「払った保険料に見合うだけの年金をもらえるのだろうか」
「少子高齢化が進めば、年金制度そのものが維持できなくなるのでは」
公的年金に対して、このような不安を持っている方は少なくありません。
確かに、少子高齢化によって公的年金を取り巻く環境は厳しくなっていますし、将来の給付水準が現在とまったく同じまま続くと考えるのも現実的ではありません。
しかし、公的年金の仕組みを詳しく見てみると、
「老後にもらうお金」というだけではない、社会保険としての大きな役割
があることがわかります。
公的年金には、
- 老後の生活を支える「老齢年金」
- 病気やけがで一定の障害状態になったときの「障害年金」
- 加入者などが亡くなったときに遺族の生活を支える「遺族年金」
があります。
つまり、公的年金は、
「長生きしたとき」
「障害を負ったとき」
「家計を支える人が亡くなったとき」
という人生の大きなリスクをカバーする社会保険でもあるのです。
この点まで含めて考えると、
「年金制度、意外と悪くない」
と思える部分も見えてきます。
年金は老後のためだけの制度ではない
「年金」という言葉から、多くの方が最初に思い浮かべるのは老齢年金でしょう。
原則65歳以降、一定の受給資格期間を満たしていれば老齢基礎年金や老齢厚生年金を受け取ることができます。
しかし、公的年金には老後以外にも重要な保障があります。
病気やけがで障害が残ったときの「障害年金」
病気やけがによって一定以上の障害状態になった場合には、要件を満たせば障害基礎年金や障害厚生年金を受け取ることができます。
障害年金は、
交通事故で身体に障害が残った場合だけを対象とする制度ではありません。
病気を原因とする障害でも、法律で定める障害状態などの要件を満たせば対象になる可能性があります。
若いうちは、
「老後なんて何十年も先だから、年金保険料を払う意味を感じない」
と思うこともあるでしょう。
しかし障害年金まで考えると、公的年金は現役世代にも関係する制度です。
家族を残して亡くなったときの「遺族年金」
公的年金には遺族年金もあります。
被保険者や年金受給者などが亡くなり、一定の要件を満たす場合には、その人によって生計を維持されていた遺族などが遺族基礎年金や遺族厚生年金を受け取れる場合があります。
誰でも必ず受給できるわけではありませんが、
「自分が亡くなったときの家族への保障」
という生命保険に近い機能も、公的年金にはあるわけです。
基礎年金の給付には税金も使われている
基礎年金の給付費については、
2009年度以降、国庫負担割合が2分の1となっています。
さらに2014年度からは、消費税率引上げによる財源を背景に、この2分の1負担が恒久化されています。
つまり、基礎年金は加入者が納める保険料だけで支えられているわけではありません。
保険料+国庫負担+積立金など
を組み合わせながら制度が運営されています。
そのため、
「自分が納めた保険料を貯金のように積み立てて、老後に返してもらう」
という制度ではありません。
現役世代の保険料をその時点の受給者へ給付する賦課方式を基本としながら、国庫負担や積立金も活用する仕組みになっています。
支払った年金保険料は全額所得控除になる
国民年金保険料や厚生年金保険料として本人が負担した金額は、所得税の社会保険料控除の対象になります。
控除額は、
その年に実際に支払った社会保険料の全額
です。
たとえば年間20万円の国民年金保険料を支払った場合、一定額だけではなく20万円全額が所得控除の対象になります。
課税所得がある人にとっては、所得税・住民税の負担を軽減する効果があります。
民間の個人年金保険とは税制も異なる
民間の個人年金保険にも「個人年金保険料控除」がありますが、公的年金の社会保険料控除とは仕組みが異なります。
2012年1月1日以降に締結した一定の個人年金保険の場合、所得税の個人年金保険料控除は最高4万円です。
2011年12月31日以前に締結した旧契約では最高5万円となる場合があります。
一方、国民年金などの社会保険料控除には、
「年間4万円まで」
といった上限はありません。
実際に支払った対象保険料の全額が控除対象になります。
もちろん、これだけを理由に「公的年金の方が民間の個人年金より優れている」と単純に比較することはできません。
民間の個人年金保険は商品によって保障内容や受取条件が異なります。
ただ、
「公的年金の保険料には大きな税制上のメリットがある」
ことは知っておいてよいでしょう。
公的年金には「終身」という大きな特徴がある
老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として受給要件を満たしていれば生涯にわたって支給されます。
これは老後資金を考えるうえで重要です。
自分で預貯金を取り崩す場合、
「何歳まで生きるかわからない」
という問題があります。
65歳から20年間分の生活費を準備しても、90歳、95歳、100歳まで長生きすれば資産が不足する可能性があります。
公的年金には、この長生きによって生活資金が不足するリスクに備える役割があります。
預貯金やNISA、iDeCoなどによる自助努力も重要ですが、
公的年金を土台にして、その上に自分の資産を積み上げる
と考えるのが基本でしょう。
年金制度に否定的な意見を考えてみる
「年金は破綻するから払わない」
少子高齢化が進んでいる以上、
「将来、公的年金制度はなくなるのではないか」
と心配する気持ちは理解できます。
公的年金は、人口構成や賃金、経済成長などによって将来の給付水準が影響を受ける制度です。
そのため国は、少なくとも5年ごとに「財政検証」を実施し、おおむね100年という長期の財政見通しを確認しています。
直近では2024年に財政検証が行われました。
また現在の年金制度には、
- 保険料水準に上限を設ける
- 基礎年金給付費の2分の1を国庫負担する
- 積立金を活用する
- 少子高齢化などに応じて給付水準を調整する「マクロ経済スライド」を設ける
といった仕組みがあります。
したがって現実的に考えるべきなのは、
「ある日突然、年金がすべてゼロになるか」
ということよりも、
少子高齢化の中で将来の給付水準がどの程度になるのか
という問題です。
「将来の給付水準には不確実性がある」と「保険料を払う意味がない」は、同じ話ではありません。
保険料が払えないなら「未納」のままにしない
収入が減ったり失業したりして、
「国民年金保険料を払いたくても払えない」
ということもあります。
この場合、未納のまま放置するのはおすすめできません。
国民年金には、
- 全額免除
- 4分の3免除
- 半額免除
- 4分の1免除
- 納付猶予
- 学生納付特例
などの制度があります。
免除や納付猶予を正式に受けた期間は、一定のルールのもと年金の受給資格期間に含まれます。
一方、単なる「未納」のままにすると、老齢基礎年金が少なくなるだけでなく、万一の際に障害基礎年金や遺族基礎年金を受けられない場合があります。
払えないときは、払わずに放置するのではなく、まず免除・猶予制度を申請することが大切です。
「年金保険料を払わず、老後は生活保護を受ければいい」
「年金保険料を払わず、老後にお金がなくなったら生活保護を受ければよい」
といった意見をネットで見かけることがあります。
生活保護を受けると、福祉事務所のケースワーカーとの面談や訪問などを通じて、収入や資産、生活状況について継続的に確認を受けることになります。
もちろん、これは必要な保護を適切に行い、自立を支援するための制度上の仕組みです。
ただ、人によってはこうした行政との継続的な関わりを負担に感じたり、できるだけ早く生活保護から自立したいと考えたりすることもあるでしょう。
また、生活保護を利用していることを周囲に知られたくないと考える方にとっては、プライバシーへの不安も無視できません。
ケースワーカーの訪問や、医療扶助を利用して医療機関を受診する場面などから、
「周囲に知られてしまうのではないか」
と心配する方もいます。
実際には、生活保護を受けていることが周囲へ公表される制度ではありませんし、行政にも個人情報を適切に取り扱うことが求められています。
それでも、本人にとっては、
「できれば知られたくない」
という心理的な負担が生じることはあるでしょう。
さらに、生活保護を受給している方の生活ぶりが社会的な関心を集め、ときには必要以上に厳しい目を向けられることもあります。
将来の生活の自由度や安心感まで考えれば、年金保険料を単に未納にして「老後は生活保護を受ければよい」と考えるより、払うことが難しい場合には免除・納付猶予制度を活用しながら、できる範囲で自分自身の生活基盤をつくっておくことが大切ではないでしょうか。
公的年金だけで老後が十分とは限らない
ここまで説明すると、
「では公的年金だけあれば老後は安心なのか」
と思うかもしれません。
もちろん、そうとは限りません。
必要な老後資金は、
- 住宅費
- 生活費
- 医療・介護費
- 夫婦か単身か
- 退職金の有無
- 働く期間
などによって大きく異なります。
公的年金制度があるから、自分で資産形成をする必要がないという意味ではありません。
むしろ、
公的年金を老後生活の「土台」と考え、その不足分を預貯金、NISA、iDeCoなどで補う
という考え方が現実的です。
年金制度、意外と悪くない
公的年金制度には、少子高齢化による給付水準の問題など、将来に向けた課題があります。
「払った分がそのまま自分に返ってくる」という貯蓄制度でもありません。
しかし、公的年金には、
- 老後に生涯受け取る老齢年金
- 病気やけがに備える障害年金
- 家族を残して亡くなった場合の遺族年金
- 基礎年金給付費への国庫負担
- 支払った社会保険料の全額所得控除
- 保険料を払えないときの免除・猶予制度
といった仕組みがあります。
年金について考えるときは、
「老後にいくら受け取れるか」
だけを見て損得を判断するのではなく、
老齢・障害・死亡という人生のリスクをまとめて保障する社会保険
として見ることが大切です。
将来の給付水準には不確実性がありますし、公的年金だけですべての老後費用を賄えるとは限りません。
それでも制度の中身を知っていくと、
「年金制度、思っていたほど悪くないかもしれない」
と感じる部分はあるのではないでしょうか。
公的年金を生活の土台として確保し、そのうえでNISAやiDeCo、預貯金などを組み合わせて、自分に必要な老後資金を準備していくことが重要です。