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こわい?出産育児一時金の落とし穴

社会保険
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健康保険法に規定されている出産育児一時金42万円(一定の場合40.4万円)は、出産の経済的負担を軽減してくれる大変ありがたい制度です。

この一時金を加入者すなわち被保険者本人に給付される場合は何の問題も生じないのですが、妻が他の会社で被保険者として働いていた時に妊娠、退職して会社員の夫の扶養に入り出産育児一時金を夫の健保組合からもらおうとする場合に少し懸念されることがあるのです。

実は、女性が1年以上勤めた会社を退職して6か月以内の出産の場合は次の規定があります。

一年以上被保険者であった者が被保険者の資格を喪失した日後六月以内に出産したときは、被保険者として受けることができるはずであった出産育児一時金の支給を最後の保険者から受けることができる。(健康保険法第106条 資格喪失後の出産育児一時金の給付)

この条文の意図するところは、退職後6か月以内の出産は前の会社に勤めていた時に出産の起因が生じたのだから、だったら前の会社から出産育児一時金をもらいましょうよ、といった趣旨で、確かに理にかなってはいるのですが、文末の「できる」の表現が曲者なのです。

この表現が「受けることとする」と強制であればよかったのですが、「受けることができる」つまりどっちでもいい、となっていることから以前クライアント先の社員さん(Aとします)が次のトラブルに遭ってしまいました。

Aの奥さんが長年勤めた会社を妊娠を機に退職し、その後6か月以内に出産をすませ、さあAが加入する健康保険組合から出産育児一時金を請求しようとしていた際に、Aの健保組合から上記健康保険法第106条の説明を受け、Aはなるほどと納得し、奥さんの健保組合に出産育児一時金を請求したところ、奥さんの健保組合から次のように言われたのです。

「奥さんは現時点でAの健保組合の扶養に入っているので、Aが保険料を支払っている今のAの健保組合からもらうのが筋だ。」

もはや法律論ではありません。“筋”を引合いに出してしまいました。あわててAは自身の健保組合に連絡し、一時金を請求しようとしたところ健保組合から、

「法律にある通り、奥さんの健保組合からもらってください。」

と言われてしまいました。法律的にはどちらの健保組合からも請求できるはずですが。。。

Aが困り果てて私のところに相談にやってきて、私も熟慮しましたが、法の趣旨に沿うことと、いまAの健保組合の印象を悪くして将来何かあった時に不利な扱いを受けることがないようにするためにも今回は奥さんの健保組合に請求することを勧め、結果何とか無事に受け取ることができました。

いまほとんどの健保組合の財政がひっ迫している状態であるとはいえ、おめでたい出産というイベントでなんとも後味の悪いというか、世知辛い出来事でありました。

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