年金分割の手続きの流れ
離婚時の年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
どちらも離婚しただけで自動的に年金記録が分割されるわけではなく、原則として年金事務所への請求手続きが必要です。
また、2026年4月1日以降に離婚等をした場合、年金分割の請求期限は原則として離婚等をした日の翌日から5年以内に延長されています。
2026年3月31日以前に離婚等をした場合は、従来どおり原則2年以内なので注意してください。
合意分割の手続き
合意分割では、婚姻期間中の厚生年金記録について、当事者の合意または家庭裁判所の手続きによって按分割合を決めます。
大まかな流れは、
①情報通知書を取得する
↓
②按分割合を決める
↓
③年金事務所で分割請求をする
↓
④標準報酬改定通知書を受け取る
となります。

「年金分割のための情報通知書」を取り寄せる
まず確認しておきたいのが、「年金分割のための情報通知書」です。
情報通知書には、
- 年金分割の対象となる期間
- 夫婦それぞれの標準報酬月額・標準賞与額
- 対象期間標準報酬総額
- 按分割合を決められる範囲
などが記載されています。
情報通知書だけでは分割後の年金額はわからない
注意したいのは、
情報通知書を見ただけでは、年金分割によって自分の年金が月いくら増えるのかが直ちにわかるわけではない
という点です。
按分割合は、分割後における対象期間標準報酬総額の持分を示すものだからです。
ただし、日本年金機構では一定の方について、年金分割を行った場合の年金見込額を試算してもらうことができます。
対象となるのは、
50歳以上で老齢年金の受給資格期間を満たしている方
については老齢厚生年金の見込額、
障害厚生年金を受給している方
については障害厚生年金の見込額です。
そのため、対象になる方は情報通知書を請求する際に、年金見込額についても確認するとよいでしょう。
情報通知書は離婚前でも請求できる
情報通知書の大きな特徴は、
離婚する前でも請求できる
ことです。
夫婦2人で共同請求することも、一方だけで請求することもできます。
一方だけで請求した場合の取扱いは、離婚前と離婚後で異なります。
| 請求時期 | 1人で請求した場合 |
| 離婚前 | 原則として請求した本人だけに情報通知書を交付 |
| 離婚後 | 請求者と相手方の双方に情報通知書を交付 |
つまり、まだ離婚していない段階で一方だけが請求した場合、情報通知書が相手方にも自動的に送付される仕組みではありません。
ただし、家庭内の事情や郵便物の受取方法などもありますので、相手に知られず手続きを進める必要がある場合は、提出先の年金事務所で送付方法なども確認しておくと安心です。
情報通知書の請求に必要な書類
現在は「年金分割のための情報提供請求書」に、主に次の書類を添えて提出します。
- 基礎年金番号またはマイナンバーを確認できる書類
- 婚姻期間を確認できる戸籍謄本・戸籍抄本など
戸籍は原則として請求日前6か月以内に交付され、婚姻日や離婚日などが確認できるものが必要です。事実婚期間がある場合には、住民票など追加書類が必要になることがあります。
旧記事にある「年金手帳」は、現在も基礎年金番号を確認する書類として使える場合がありますが、現在は基礎年金番号通知書やマイナンバーカードなどによる手続きも一般的です。
年金分割について話し合う
情報通知書を確認したら、合意分割を行うかどうかと、分割後の按分割合を話し合います。
按分割合の上限は50%です。
ただし、
「必ず50%にしなければならない」
わけではありません。
情報通知書に記載された按分割合の範囲内で当事者が合意します。
話し合いで合意できない場合には、家庭裁判所の調停や審判などによって按分割合を定めてもらうことができます。
離婚と同時に争っているのか、離婚成立後に年金分割の割合だけを争っているのかなどによって利用する手続きも異なります。
公正証書は必須ではない
公正証書は合意分割の必須条件ではありません。
当事者間で按分割合について合意した場合、日本年金機構では主に次のいずれかで合意内容を証明できます。
| 公正証書 | 公証人が作成した公正証書の謄本・抄本 |
| 認証を受けた私署証書 | 公証人の認証を受けた合意書 |
| 年金分割の合意書 | 日本年金機構所定の合意書に双方が署名 |
所定の「年金分割の合意書」を利用する場合には、原則として当事者双方またはそれぞれの代理人がそろって年金事務所へ持参する必要があります。
相手と一緒に年金事務所へ行くことが難しい場合には、公正証書や公証人の認証を受けた私署証書を利用する方法もあります。
合意分割を年金事務所へ請求する
按分割合を決めただけでは年金分割は完了しません。
離婚成立後に「標準報酬改定請求書」を提出し、実際に年金分割を請求する必要があります。
必要となる主な書類は、
- 標準報酬改定請求書
- 基礎年金番号またはマイナンバーを確認できる書類
- 婚姻期間を確認できる戸籍謄本・戸籍抄本など
- 当事者の生存を確認する書類
- 按分割合を確認できる公正証書、合意書、調停調書など
です。
当事者の生存を確認する書類は、請求日前1か月以内に交付された戸籍謄本、戸籍抄本または住民票などですが、請求書にマイナンバーを記載することで省略できる場合があります。
また、旧記事では「印鑑」を必要書類としていましたが、年金手続きは現在、原則として押印が廃止されています。
ただし、代理人による「年金分割の合意書」を利用するケースなど、印鑑・印鑑登録証明書が必要になる手続きもあります。
手続きが完了すると、分割後の標準報酬記録を記載した「標準報酬改定通知書」が当事者へ通知されます。
3号分割の手続き
3号分割は、2008年4月1日以降の婚姻期間中に第3号被保険者であった期間について、相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ分割する制度です。

大きな特徴は、
相手の同意も、按分割合についての話し合いも必要ない
ことです。
第3号被保険者であった本人からの請求によって、対象となる厚生年金記録を2分の1ずつに分割します。
なお、第3号被保険者は「妻」に限りません。
夫が第3号被保険者だった場合には、夫から請求することもできます。
3号分割を請求する
3号分割は原則として離婚後に、「標準報酬改定請求書」を年金事務所へ提出します。
主な必要書類は、
- 標準報酬改定請求書
- 基礎年金番号またはマイナンバーを確認できる書類
- 婚姻期間を確認できる戸籍謄本・戸籍抄本など
- 当事者の生存を確認できる書類
です。
マイナンバーを請求書に記載することで、一部書類を省略できる場合があります。
3号分割だけを請求する場合には、合意分割のような公正証書や按分割合についての合意書は必要ありません。
合意分割と3号分割は併用できる
合意分割と3号分割は、どちらか一方しか利用できない制度ではありません。
合意分割の対象となる婚姻期間の中に3号分割の対象期間がある場合、
合意分割を請求すると、その3号分割についても同時に請求があったものとみなされます。
手続き上は、合意分割用の標準報酬改定請求書を提出すれば、別途3号分割用の請求書をもう1枚提出する必要はありません。
対象となる3号期間について3号分割を行った後の標準報酬を基礎として、最終的な合意分割の計算が行われます。
年金分割の請求期限は原則5年
年金分割の手続きでは、期限に特に注意してください。
2026年4月1日以降に離婚等をした場合は、
原則として離婚等をした日の翌日から5年以内
に請求する必要があります。
一方、2026年3月31日以前に離婚等をした場合には、原則として従来どおり2年以内です。
| 離婚等の日 | 原則の請求期限 |
| 2026年3月31日以前 | 離婚等の日の翌日から2年以内 |
| 2026年4月1日以降 | 離婚等の日の翌日から5年以内 |
調停や審判などが続いて期限を超える場合には、一定の要件を満たせば、調停成立や審判確定などの日の翌日から6か月以内まで請求できる特例もあります。
期限が近づいている場合には、早めに年金事務所へ相談しましょう。
公正証書とは
公正証書とは、公証人が法律に基づいて作成する公文書です。
離婚時には、
- 養育費
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割の合意
などを公正証書へ記載することがあります。
ただし、先ほど説明したように、
年金分割をするために公正証書の作成が必須というわけではありません。
年金分割については、公正証書以外にも、公証人の認証を受けた私署証書や、日本年金機構所定の「年金分割の合意書」を利用できます。
一方、養育費など継続的な金銭の支払いについては、公正証書を作成しておくことにメリットがあります。
たとえば養育費について、
「支払いが滞った場合には直ちに強制執行を受けても異議がない」
という強制執行認諾文言を盛り込んだ公正証書を作成しておけば、裁判であらためて支払い義務を確定させる手続きを経ずに強制執行を申し立てることができます。
ただし、
「公正証書を作れば、国が自動的に給与や預金を差し押さえてくれる」
という意味ではありません。
実際に差押えなどを行うには、債権者自身が裁判所へ強制執行を申し立てる必要があります。
離婚時には年金分割だけでなく、養育費や財産分与など複数の取り決めを行うことも多いため、必要に応じて公正証書を活用するとよいでしょう。
年金分割の手続きまとめ
年金分割では、合意分割と3号分割で手続きが異なります。
合意分割では、まず情報通知書を取得し、当事者間または家庭裁判所で按分割合を決定したうえで、標準報酬改定請求を行います。
3号分割では、対象となる第3号被保険者期間について相手の同意は必要なく、離婚後に本人から請求できます。
そして、合意分割の対象期間に3号分割の対象期間が含まれている場合は、合意分割を請求することで3号分割の請求もあったものとして処理されます。
特に注意したいのが請求期限です。
2026年4月1日以降の離婚では原則5年以内、2026年3月31日以前の離婚では原則2年以内
となります。
離婚が成立しただけで年金記録が自動的に変わるわけではありません。
将来受け取る老齢厚生年金に関わる重要な手続きですので、離婚を検討している段階から情報通知書を取得し、自分がどの制度を利用できるのか確認しておきましょう。