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同一労働同一賃金 パートアルバイトが主張できるラインは

労働法令
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パート、アルバイトの身分でいながら、「社員と同じような仕事をしている」「むしろ社員以上の仕事をしている」という方も少なくないのではないでしょうか。

同一労働同一賃金に関する最高裁判決が出そろい始め、まだ確定とは言えない段階ではありますが正社員と有期契約労働者の待遇に差をつけることが不合理と判断されるボーダーラインが見えてきました。

不合理と認められやすい可能性について表にまとめましたので、まずはこちらからご覧ください。

以下、各項目ごとに解説していきます。

通勤手当、出張旅費(交通費)

通勤手当や出張旅費といった交通費関連の手当について、正社員と差を設けることは禁止されています。

有期契約労働者のみ交通費を支給しない、上限を設けるという会社もまだ存在しますが、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン」には“同一の支給を行わなければならない”と明確に示されていますし、過去の判例をみてもことごとく会社側が敗訴していることから、不合理と判断される可能性は極めて高いと言えます。

ただ正社員は定期代、パート・アルバイトは1日の往復交通費×勤務日数というように計算方法が違っていても違法ではありません。パート・アルバイトが正社員より勤務日数が少ないことは多々あることですし、計算方法はどうであれ実費全額支給ということに変わりないからです。

各種手当・特別休暇

各種手当や特別休暇については、その手当や休暇の趣旨・目的が有期契約労働者にまで及ぶか否かによって不合理かどうか判断されています。主な手当、休暇の結論については以下のとおりです。

家族手当(扶養手当)

扶養する家族の生活費補助が目的の手当であり、正規、非正規関係なく扶養する家族がいれば生活費が増えるのは一緒なので、有期契約労働者に支給しないのは不合理と判断されました。(日本郵便事件)

給食手当(食事手当)

勤務時間中の食事を補助をするのが目的の手当であり、正規、非正規関係なく食事を取ることにかわりないので、有期契約労働者に支給しない、差をつけるのは不合理と判断されました。(ハマキョウレックス事件)

ただし、休憩時間のない短時間労働者に支給しないのは不合理となりません。

ちなみに食堂の利用を正社員に限定するようなことも「同一労働同一賃金ガイドライン」で禁止されています。

住宅手当(住居手当)

ハマキョウレックス、長澤運輸事件

正社員には転居を伴う転勤があり、その住宅費用を補助するのが目的の手当なのだから、転勤のない有期契約労働者に支給しなくとも不合理ではないと判断されました。

メトロコマース、日本郵便事件

正社員の転居を伴う転勤は想定しておらず、住宅費用を補助するのが目的となっていないのだから、有期契約労働者に支給しないのは不合理と判断されました。

このように引越しが必要な転勤が実態として存在しているかどうかが判決の分かれ目になっています。

精勤手当(皆勤手当)

皆勤を奨励するのが目的の手当なのだから、仕事内容が同じであれば有期契約労働者に支給しないのは不合理と判断されました。(長澤運輸事件)

早出残業手当

残業を抑制させるために企業に割増金を課すという趣旨で労働基準法が定めているものであり、その趣旨から考えれば正社員と有期契約労働者で残業の割増率に差をつけるのは不合理と判断されました。(メトロコマース事件)

夏季冬季特別休暇

年次有給休暇とは別に夏や冬に有給の休暇を付与するのは、夏や冬に休むのは日本人の昔からの慣習ということもありますし、体への負担の大きい時期に心身のリフレッシュを図るという趣旨から考えても有期契約労働者だけに付与しないのは不合理と判断されました。(日本郵便事件、大阪医科薬科大学事件)

病気休暇

日本郵便事件

年次有給休暇とは別に病気治療のための有給の休暇を付与するのは、長期雇用が予定される正社員への生活保障を目的としたものであり、有期契約とはいえ10年前後勤務している原告についても長期雇用が見込まれる者とみなすべきで、付与しないのは不合理と判断されました。

大阪医科薬科大学事件

目的については日本郵便と同様の見解を示しながらも、原告は2年ほどしか勤務実績がなく、長期雇用が見込まれるとは言い難いとして、不合理ではないという判断をされました。

特別休暇や各種手当については、契約の更新を繰り返し、勤続年数が長ければ長いほど認められやすい傾向にあります。何年なら認められるのかは具体的には示されませんでしたが、有識者によれば5年がひとつの目安となるのではとされています。

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退職金・賞与

この権利を勝ち取るのは、現時点ではかなり難しいと言わざるを得ません。なぜなら2020年、同一労働同一賃金に関わる訴訟として注目を集めた2つの事件において、最高裁判所はいずれも有期契約労働者に退職金や賞与を支給しなくても不合理ではないという判決を出したからです。

これは「正社員人材確保論」という、事業を発展させるためには長期的なビジョンで正社員を育成することが必要となり、その人材を確保し、定着させるための賞与や退職金なのだから、長期育成を想定していない有期契約労働者は対象外というのが主な理由です。

ただ2つの判決のうちメトロコマース訴訟については5人の裁判官が全員一致だったわけではなく、1人が反対、2人が労働者側寄りの見解だったことから、今後、正社員と同等の業務に就き、相当長い期間在籍しているようなパート・アルバイトの方が訴えた場合には、結果が変わる可能性がないとは言えません。

まとめ

格差解消に向けた行動の流れ

正社員との待遇格差について疑問を感じたら、まずは会社に説明を求めていくのが順番です。待遇差の説明責任は会社の義務としてパートタイム・有期雇用労働法第14条2項で定められています。

納得のいく説明が得られなかったら、労働基準監督署ではなく都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談を申し込みます。

その際、以下の2点を自分なりにまとめてから相談することを強くおすすめします。その2点の内容が待遇の格差に該当するかどうかの重要な判断材料になってくるからです。

  • 正社員との仕事内容や責任の違い
  • 正社員との人材活用の仕組みや運用(転勤や仕事内容・配置の変更)の違い

判例はあくまでひとつの目安

同一労働同一賃金をめぐる最高裁判決が相次いで出された2020年ですが、待遇格差問題が決着したわけではありません。

仕事内容や勤続年数、労働環境などによって判決が異なる可能性は十分ありますので、判例にとらわれすぎることなく、社員と同等、もしくは同等以上に働いていると自負されている方は、待遇改善に向けた行動を検討してみてはいかがでしょうか。

参考:厚労省「同一労働同一賃金ガイドライン