年金分割の手続きの流れ
合意分割
合意を取り付ける労力は要しますが、婚姻期間すべてが分割の対象になるというメリットがあります。
「年金分割のための情報提供通知書」を取り寄せる
「年金分割のための情報提供通知書」とは、年金分割の対象となる婚姻期間や、婚姻期間中に夫婦それぞれ払い込んだ年金保険料の合計額(標準報酬総額)、按分割合の範囲など、年金分割に必要な情報が記載されているものです。
注意すべき点は、この通知書からは「いくら分割されるのか」「分割後はいくらになるのか」が分からないことです。
標準報酬総額から導き出すことは可能ですが、現役社会保険労務士でも苦労するほど計算が難しいので、詳しい金額が知りたい場合は社労士の中でも年金に特化した専門家に依頼しましょう。
なお、50歳以上で老齢基礎年金の受給要件を満たしている方(※)や、障害厚生年金を受給中の方については、希望により年金分割時の老齢厚生年金の見込み額を教えてもらえます。
(※)他サイトの説明記事を見ると“50歳以上”とだけ書いているところが多いのですが、年金事務所に問い合わせたところ「老齢基礎年金の受給要件を満たしている」ことも条件とのこと。
「年金分割のための情報通知書」の請求は郵送でも可能ですが、請求書の記入事項が複雑のため年金事務所に出向き、職員さんに書き方を教えてもらって提出したほうが安心です。
ちなみに「年金分割のための情報通知書」の請求は、離婚の前後を問わず1人でも2人共同でも行うことができます。
2人が共同で請求した場合は2人それぞれに交付されますが、1人で請求した場合においては、離婚前であれば請求者のみに、離婚後であれば2人に提供されます。つまり、まだ離婚を検討中の段階であれば相手に内緒で入手することができるのです。
交付まで1~4週間ほどかかり、郵送で送られてきますが、秘密裏に進めたいのであれば、年金事務所の窓口で直接受け取ることができるほか、郵送先を指定することもできます。請求するためには以下の書類が必要です。
請求者の年金手帳もしくは基礎年金番号通知書
戸籍謄本もしくは抄本(婚姻期間の記載があるもの)
ちなみに一度年金分割のための情報通知書を請求して再び通知書を取り寄せようとしても、最低3ヵ月が経過しないと受け付けてもらえません。これは短期間に何度も請求しないでという国の意向によるものです。
それと当然ですが年金分割の請求期限が離婚日から2年ですから、離婚日から2年経過したときも通知書の請求を受け付けてもらえません。
年金分割の話し合い
年金分割への合意と按分割合の話し合いをします。割合は50%での決着が最も一般的です。もし話し合いが不調に終わった場合は、①家事調停、②家事審判、③家庭裁判所での裁判の順で合意を目指すことになります。
話し合いで解決した場合には、公証人役場で合意内容をまとめた公正証書等を発行してもらいます。調停、審判、裁判での決着の場合は、裁判所が合意内容をまとめた書類を作成します。
これらの書類を「公正証書等の按分割合を定めた書類」といい、分割請求の際に必要となるものです。
年金分割の請求
年金分割の合意が得られ、按分割合まで話がまとまったとしても、年金事務所に出向いて分割請求をしなければ改定手続きは行われません。年金事務所へは夫婦どちらか一人だけでも受け付けてもらえます。
必要書類
年金事務所に備え付けてある分割請求用の書類(標準報酬改定請求書)に次の書類を添付します。
公正証書等の按分割合を定めた書類
請求者の年金手帳もしくは基礎年金番号通知書
戸籍謄本もしくは抄本(婚姻期間の記載があるもの)
印鑑
身分証明書(写真付きのもの)
分割手続きが完了すると、改定された標準報酬が記載された「標準報酬改定通知書」が当事者それぞれに送付されます。
3号分割
分割の対象となる期間が平成20年4月から離婚月までと分け前は少ないものの、話し合いが不要で「一人で手続きを完了することができる」というメリットがあります。
年金分割の請求
合意の取り付けや按分割合の交渉など一切要りません。第3号被保険者(妻)が年金事務所に行き標準報酬改定請求書を提出すれば、自動的に50%で分割してもらえます。
必要書類
第3号被保険者の年金手帳もしくは基礎年金番号通知書
戸籍謄本もしくは抄本(婚姻期間の記載があるもの)
印鑑
身分証明書(写真付きのもの)
※合意分割、3号分割とも必要書類につきましては、念のため最寄りの年金事務所にご確認ください。
合意分割と3号分割はどちらか一方しか利用できない?
結論から申しますと二つの制度は併用できます。
3号分割のみを請求する場合は分割の対象となる期間が重なることはありませんが、合意分割の場合は、合意分割の期間の中に3号分割の期間が含まれる形になり、重なる部分が発生してしまいます。
そのため合意分割を請求する場合は、まず3号分割が先行して行われ、残りの期間を合意分割で行うことになっています。
公正証書とは
約束事をまとめた文書を公証人役場に持っていくと、国がその内容にお墨付きを与えてくれるものです。もし約束が破られるようなことがあれば、国が強制的に履行させます。
例えば養育費を毎月いくらと決めたのに支払いが滞ると、国が相手の資産や給料を差し止めるといった強い執行力を持っています。
合意分割の請求の際には必須の公正証書ですが、それ以外の離婚協議での決め事についても口約束ではなく公正証書を作成したほうが安心です。