夫婦共働きのケース
離婚時の年金分割を理解するときに、まず注意したいのが、
「夫が納めた年金保険料を妻へ分ける制度ではない」
という点です。
合意分割で分割するのは、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬月額・標準賞与額の記録です。
日本年金機構から交付される「年金分割のための情報通知書」には、これらの記録を再評価率によって現在価値に換算して合計した「対象期間標準報酬総額」が記載されます。
ここでは、仕組みをわかりやすくするため、次の夫婦を例にします。
| 対象期間標準報酬総額 | |
| 夫 | 1億8,000万円 |
| 妻 | 6,000万円 |
| 合計 | 2億4,000万円 |
※金額は年金分割の仕組みを説明するための架空の例です。
按分割合の下限を確認する
按分割合とは、夫婦2人の対象期間標準報酬総額を合計したうち、分割後に標準報酬総額が少なかった側が持つ割合です。
今回の例では、妻の対象期間標準報酬総額は6,000万円なので、
6,000万円 ÷ 2億4,000万円 = 25%
となります。
したがって按分割合は、
25%以上50%以下の範囲
で決めることになります。
按分割合には、
- 分割によって少ない側の持分を減らさない
- 分割後に少ない側が多い側を上回らない
という考え方があるため、上限は50%です。
按分割合50%なら夫婦の持分は半分ずつになる
今回、按分割合を50%とした場合を考えてみましょう。
夫婦の対象期間標準報酬総額の合計は、
1億8,000万円+6,000万円=2億4,000万円
です。
按分割合50%なら、分割後の持分は、
夫:1億2,000万円相当
妻:1億2,000万円相当
というイメージになります。
つまり妻側には、夫側から6,000万円相当の標準報酬記録が移ることになります。
ただし、
実際に6,000万円のお金が移動するわけではありません。
年金記録上の標準報酬月額・標準賞与額が改定され、その改定後の記録を使って将来の老齢厚生年金などが計算されます。
按分割合50%でも将来の年金総額が完全に同じとは限らない
ここも誤解しやすいところです。
年金分割によって婚姻期間中の対象期間標準報酬総額を50%ずつにしても、
夫婦が将来受け取る公的年金の総額まで同額になるとは限りません。
年金分割の対象になるのは、婚姻期間中の厚生年金記録です。
婚姻前・離婚後の厚生年金加入期間や、老齢基礎年金の加入記録などは、それぞれ本人の記録のままです。
そのため、
「按分割合50%=夫の年金と妻の年金が完全に半分ずつ」
ではありません。
妻が専業主婦だったケース
次に、婚姻期間中に夫が会社員として厚生年金へ加入し、妻に厚生年金記録がないケースを考えてみましょう。
| 対象期間標準報酬総額 | |
| 夫 | 1億8,000万円 |
| 妻 | 0円 |
| 合計 | 1億8,000万円 |
※制度の仕組みを説明するための単純化した例です。
合意分割なら按分割合の下限は0%
妻側の対象期間標準報酬総額が0円であれば、
0円 ÷ 1億8,000万円=0%
となります。
したがって、合意分割で定めることのできる按分割合は、情報通知書で示された範囲内で最大50%となります。
仮に50%で合意すれば、
夫:9,000万円相当
妻:9,000万円相当
というイメージになります。
ここでも現金9,000万円を分けるのではなく、厚生年金の標準報酬記録を分割します。
2008年4月以降の第3号被保険者期間は「3号分割」
ただし、専業主婦・専業主夫だった場合には、合意分割だけを考えればよいわけではありません。
2008年4月1日以降に国民年金第3号被保険者だった期間については、3号分割の対象になる場合があります。
3号分割では、
相手方の合意を必要とせず、対象となる厚生年金記録を2分の1ずつに分割します。
つまり、
2008年3月以前の婚姻期間 → 必要に応じて合意分割
2008年4月以降の第3号被保険者期間 → 3号分割
と考えるとわかりやすいでしょう。
なお、合意分割の対象期間に3号分割の対象期間が含まれている場合、情報通知書では、まず3号分割を行ったものと仮定して標準報酬を2分の1ずつにしたうえで、合意分割の按分割合の範囲が計算されます。
2003(平成15)年4月を境に厚生年金の計算方法が異なる
2003年3月以前は、老齢厚生年金の報酬比例部分について、基本的に標準報酬月額をもとに計算します。
2003年4月以降は、標準報酬月額に加えて標準賞与額も年金額へ反映されるようになりました。
そのため、現在の老齢厚生年金の報酬比例部分は、大きく次のように分けて計算します。
2003年3月以前
昭和21年4月2日以後生まれの方の本来水準では、
平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 加入月数
が基本です。
2003年4月以降
同じく本来水準では、
平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 加入月数
が基本になります。
平均標準報酬額には標準賞与額も含まれます。
年金分割後にいくら増えるかは単純計算できない
「年金分割をすると、妻の年金はいくら増えるのか?」
という点が最も知りたいところでしょう。
しかし実際には、
- 婚姻期間中の各月の標準報酬月額
- 標準賞与額
- 2003年3月以前と4月以降の期間
- 再評価率
- 本人の生年月日
- 厚生年金の加入期間
- 婚姻期間外の年金記録
などをもとに計算する必要があります。
したがって、
対象期間標準報酬総額を半分にして、一定の給付乗率を掛ければ正確な年金額が出るわけではありません。
日本年金機構も、過去の標準報酬に再評価率を乗じて年金額を計算しています。
50歳以上なら分割後の年金見込額を試算してもらえる
自分で複雑な計算をするよりも、日本年金機構の試算を利用するのが確実です。
「年金分割のための情報提供請求書」では、一定の方について年金分割後の年金見込額を希望できます。
現在の様式では、
- 50歳以上の方
- 障害厚生年金を受けている方
について、按分割合を指定して見込額の試算を希望できる仕組みになっています。
たとえば、
按分割合40%の場合
按分割合50%の場合
など、実際にどの程度年金額へ影響するのか確認してから話し合うとよいでしょう。
年金分割の計算は自分で無理に行わなくてもよい
年金分割の考え方そのものは、
夫婦の対象期間標準報酬総額を確認
↓
按分割合を決める
↓
厚生年金記録を分割
↓
分割後の記録から年金額を計算
という流れです。
しかし、実際の年金額計算では、各月の標準報酬や再評価率などが関係するため非常に複雑です。
そのため、
「自分で正確な金額を計算すること」よりも、「情報通知書と年金見込額を確認すること」のほうが実務的です。
まずは「年金分割のための情報通知書」を取り寄せ、
・自分と相手の対象期間標準報酬総額
・按分割合の範囲
・分割対象期間
を確認しましょう。
50歳以上など試算の対象となる方は、日本年金機構へ年金見込額の試算を依頼する方法もあります。
年金分割の計算方法まとめ
年金分割で最も重要なのは、
「保険料を半分にする制度ではない」
という点です。
分割するのは、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬記録です。
共働きの場合には双方の対象期間標準報酬総額を合計し、情報通知書に記載された範囲で按分割合を決めます。
一方、2008年4月以降の第3号被保険者期間については、3号分割により相手の同意なしで2分の1ずつに分割できる場合があります。
2026年時点の厚生年金額は、過去の標準報酬を再評価したうえで、本来水準や従前額保障などを踏まえて計算されます。
年金分割後の正確な見込額を知りたい場合は、自分で複雑な計算をするより、日本年金機構の情報通知書や年金見込額試算を活用することをおすすめします。